ゆ・ら・ら くるりん
遠い遠い…森の記憶
(その5)
その日の夕方、たっちゃんが家に帰ると、家の前でお父さんが難しい顔をして立っていて、
(なんだろう?)
たっちゃんの姿を見つけると、あわててこちらへ駆けてきた。
「たっちゃん!待ってたよ。さっきお母さん病院に行ったんだ。」
「もうすぐ赤ちゃんが産まれるんだよ。お父さんもこれからすぐ病院に行かなきゃならないんだ。わかるね。」
「うん、わかった。僕ひとりで留守番してるよ。早くおかあさんのところへ行ってあげて。」
(ひとりぼっち‥か)実は、内心不安でいっぱいのたっちゃんだったけれど、
体の中から元気な声を絞り出すようにしてお父さんに答えた。
「そうか、お兄ちゃんになるんだもんな。頼もしいぞ。
お父さんが帰ってくるまで、隣の水野さんちのおばさんに頼んであるからな。」
と言うと、あわてて車に乗り込み、病院へと向かっていった。
家の中に入ると、
あのいつも喧嘩ばかりしている水野のおじちゃんとおばちゃんが、心配そうな顔をして待っていた。
夕飯を食べた後も、ふたりは自分の家にも戻らず
「何か欲しいものはない?」とか「絵本でも読んであげようか?」などと
あれこれ話しかけてきたけれど、
たっちゃんはその問いに一つ一つ笑って答えるのにすっかり疲れてしまった。
「僕なんだか眠たくなったから寝てもいい?」と言うと、
二人は「眠るまでそばに居るから安心しな。」というから、仕方なく目を閉じて眠ったふりをした。
すると二人はやっと安心したように家に帰っていった。
