ゆ・ら・ら くるりん
遠い遠い…森の記憶
(その7)
「たっちゃん、ようこそ!」
と突然目の前に現れた大きな木の上の方から声がした。
「あっ、写真のおじさんだね。」
「そうだよ。久しぶりだね。たっちゃん」

「ぼくに会ったことがある?お話したことがある?」
「ああ、君が今よりもっともっとちっちゃかった時だけどね。
お父さんが君を背中におぶって、お母さんと3人でここまで来たのさ。」
「君のお母さんは、この森がある南の果ての小さな島で生まれて育ったんだ。
お母さんのことも小さな頃からよーく知っているんだよ。
そして、君のお父さんは、ある時、
この島からずっと遠くのコンクリートばかりの大きな街からやってきて、
この島でお母さんと出会ったんだ。」
「そして二人は結婚してぼくが生まれたんだね。」
「そうだよ。二人は、この島を出て、お父さんの住む町へ行ってしまったけれど、
君が生まれて1年が経った時、二人は君をおじさんのところに連れてきてくれたんだ。」
「君はまだ自分の足でやっと歩けるようになったばかりだったけれど、おじさんのところへまっすぐ歩いてきて、
その可愛い手をとんとんってぼくの体にあてて、ぼくに話しかけてきたのさ。」
「ぼくなんだか思い出したよ。きっとおじさんが好きだからお話したくなったんだ。」
「この森もぼく大好きだよ。どうしてぼくの周りにはこんな素敵な森がないのかなあ。」
「それはね。みんな勘違いしているのさ。大事なものが見えなくなっているんだ。
便利になることばかり求めて、山を削り沢山の木を倒してコンクリートの道をつくり、
車を走らせ、ビルを建てて古いものをどんどん捨てていくんだ。」
「本当に大事なものは、自然の中にあるんだ。
風や太陽や木々や草や川や海は沢山のものを僕たちに与えてくれるんだよ。」
「おじさんはもう何千年もここでみんなを見ているんだ。
時に悲しくなることもあるけれど、
たっちゃんみたいな心のまっすぐな子供達と会うと元気が出るんだ。」
「そうそう君の街にコッペパン自慢のパン屋さんがいるだろう?」
(えっ!どうして知っているの?)
「皆新しいものに目がいくけど、あのパンは最高さ。
何が一番大事なものなのかを忘れないことだよ。たっちゃん。」
「うん、ぼく絶対忘れないよ。今度は赤ちゃんと4人で、
おじさんところへ、「この森」へ会いに来るからね。」
