ゆ・ら・ら くるりん
遠い遠い…森の記憶
(その8)
「達也!」なんだか聞き覚えのある声…振り返るとお父さんだ。
「たっちゃん、おはよう。夕べはひとりでよく頑張ったね。」
「おかあさんは?」
「大丈夫!お母さんも頑張ったよ。元気な女の子を産んでくれたからね。」
(ああ、よかった。でもおじさんはどこ?)
気が付くとたっちゃんは布団の中に居た。
枕元の壁には、朝のまぶしい光を浴びたあの森のおじさんの木が写真の中に立っていた。
「お父さん、赤ちゃんが大きくなったら、この写真の森に4人で行こうね。
ぼくおじさんに行くって約束したから。」
「おじさんって誰だい?達也は夢見てたのかな?でも「この森」には絶対お前を連れていくよ。
お母さんと決めているんだ、4人で行くって…な。」
たっちゃんは今日も元気に外へ出かけていく。
途中の道で会った木村のおじさんにたっちゃんはこう言った。
「おじさん、ずっとずっと美味しいコッペパン作ってね。ぼく応援しているから。」
「ああ、頑張るさ。おじさんのパンを待っている人がいっぱいいる限りはずっとな。」
いつもの川原に着くと、急に風が吹いてきて、
その中にわずかに「あの森」の濃い緑の香りが、確かに混じっていた。
耳を澄ますと、ひゅーと鳴る風の音の中に、あのおじさんの優しい声が聞こえた気がした。
「たっちゃん、おじさんは遠くからずっと君を見ているよ」…と。
おわり
